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最高裁判所第一小法廷 昭和61年(行ツ)18号 判決 1986年7月17日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡田英彦、同大儀武夫、同小玉秀男の上告理由について

実用新案法三条一項三号にいう頒布された刊行物とは、公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書、図画その他これに類する情報伝達媒体であつて、頒布されたものを意味するところ(最高裁昭和五三年(行ツ)第六九号同五五年七月四日第二小法廷判決・民集三四巻四号五七〇頁参照)、原審の適法に確定した事実関係によれば、所論のマイクロフイルムは、オーストラリア国特許第四〇八五三九号にかかる特許出願の明細書の原本を複製したマイクロフイルムであつて、おそくとも本願考案の実用新案登録出願がされた昭和四六年一一月二日より前の一九七〇年(昭和四五年)一二月一〇日までに、同国特許庁の本庁及び五か所の支所に備え付けられ、同日以降はいつでも、公衆がデイスプレイスクリーンを使用してその内容を閲覧し、普通紙に複写してその複写物の交付を受けることができる状態になつたというのであるから、本願考案の実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物に該当するものと解するのが相当である。

けだし、右の事実関係によれば、右マイクロフイルムは、それ自体公衆に交付されるものではないが、前記オーストラリア国特許明細書に記載された情報を広く公衆に伝達することを目的として複製された明細書原本の複製物であつて、この点明細書の内容を印刷した複製物となんら変わるところはなく、また、本願考案の実用新案登録出願前に、同国特許庁本庁及び支所において一般公衆による閲覧、複写の可能な状態におかれたものであつて、頒布されたものということができるからである。右マイクロフイルムの部数が一般の印刷物と比較して少数にとどまることは、これをもつて頒布された刊行物という妨げとなるものではないというべきである。

したがつて、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、また、所論引用の前示判例に違背する点も存しない。論旨は、右と異なる見解に立つて原判決を論難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎)

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